引用元: ・中国経済はもはやアメリカを抜けないのか? 「急速な減速」の実情と習近平政権の「的はずれな対策」 [662593167]
■成長の行く手を阻むさまざまな問題中国経済は、購買力平価でみると、すでにアメリカ経済の規模を上回っている。あとは為替がどう動くか、時間の経過によって、現実にアメリカ経済を抜くのをみることになるだろうといわれていた。コロナ禍前までは、2030年以前、2028年頃にそうした逆転がみられるという予想が主流だった。
ところが、習近平の3期目に入り、習独裁の下での経済運営には問題が多いことが認識されるようになった。
目下の問題としては国内にいつ爆発するかわからない不動産金融危機や実態としては5割になんなんとする若者層の失業を抱えている一方、長期の視点からしても人口減、老齢化などの問題が成長の行く手を阻んでいることが懸念されるようになった。
結果として、中国経済がアメリカを抜くことはないという中国リオが提示されるようになった。筆者が問うた技術覇権をどちらが握るかという問題は依然として有効だが、当面、中国経済がアメリカを凌駕できないという見方はドル覇権への挑戦権への赤信号だ。
国連の『世界人口推計2022年版』は、中国の将来人口と出生率を、前回(2019年)から大幅に下方修正した。
筆者は来日した人口学の大家、エマニュエル・トッドとの短い会話のなかで、人口減少に直面する中国がアメリカに代わる覇権国にならないという中国リオはいまも有効かと訊いたところ、国連統計が追認するはずだという返事だった。今回の改訂はそれを確認するものだったことになる。
現行為替レートを前提にする限り、中国の経済規模がアメリカに追いつかない中国リオの確率が高まっているのだ。日本経済研究センターの中期予測のリスク中国リオでは、不動産バブルの崩壊は2027年に持ち越され、その年はゼロ成長、2029年以降2%台に落ちるという中国経済の日本化をみている。
この中国リオでは2035年の実質GDPは32兆ドルと、2020年比1.4倍にとどまり、倍増計画は烏有に帰す。上図に示す2029年に成長率が3%を切り2035年には1%台に落ち込むという標準中国リオでも、コロナ禍前には考えられた米中逆転の中国リオはまったく視野に入らないという予測結果だ。
IMFで対中・4条協議報告書の作成の責任者を務めたこともあるコーネル大学教授のエスワー・プラサドも、中国がアメリカ経済を抜くという中国リオの実現可能性は低くなったと指摘している。
■「住宅バブル」はすでに弾けている?「爛尾楼」は、住宅面積にして4%程度にとどまっているが、それだけならば十分に金融機関が吸収できるものだ。問題は一般消費者の不信がぬぐえず、住宅購入意欲が回復していないことである。住宅購入の年齢層の人口が減少し始めていることと過剰ともいえる債務に依存した開発の限界がみえてきたためだ。
中国の2023年末の債務の対GDP比率は推定306%と、遡れる1995年末以降で最高となっただけでなく、1998年3月末の日本(296%)を超えたとみられる。新型コロナウイルス対策の移動制限で景気が悪化し、地方政府がインフラ建設のため債券の発行を増やしたことが大きい。
こうした現状について、ハーバード大学教授のケネス・ロゴフは、2010年代に金融危機に陥ったスペインやアイルランドのピーク時と比較しても、その水準を超えており、いつバブル崩壊が起きてもおかしくない状況だと警告していた。
中国のGDPに占める不動産部門の割合は29%となっており、そこでの不況は中国経済に大きく影響しているだけでなく、社会不安も呼んでいる。このため2022年11月にはそれまで締め付けをしていた対不動産金融政策をがらりと変え、さらに2023年夏からは不動産業への支援の姿勢を強め、建設途中の物件が着実に予約者に届くよう改めた。
政府の指示を受け、銀行は住宅ローンなど貸出金利を下げ、不動産など民間企業向け融資を増やし目標を達成しようと必死だが、一方で利ザヤが過去最低を記録するなど銀行収益を圧迫し、不良債権の償却を遅らせざるを得なくなっている。こうした状況は危険極まりないのではないか。
これに対し、関志雄は、恒大や碧桂園などの不動産開発企業の債務問題をきっかけに、住宅バブルがすでに弾けたとみている。住宅市場の低迷が長期化する予想の下、不動産開発企業では債務の再編を余儀なくされ、銀行や企業、家計もバランスシート調整を余儀なくされているというのだ。
銀行はほとんどが国有企業であり、最後は政府が面倒をみるというのであろうか。その後の実際の政策としては、不動産会社の経営者のモラルを問いつつ、つまり様々な罰則を科しながら住宅を買い取るという措置がとられている。
2024年2月に公表されたIMFの4条協議報告書でも、不動産問題に断固たる措置をとらずに中途半端な延命策を続ければ、中期的な経済成長率の大幅鈍化は避けられず、2024年の4.6%から2028年の3.4%へと5年連続で急ピッチに低下していくとの警告がなされた。
日本経済研究センターの予測と異なりIMF報告書は中国政府との協議を経たものでバイデン政権高官は甘すぎるとコメントしている。それでも急激な減速なのだ。
仕方がないね